44.「第21回 島の国トライアスロン大会(5)」ーーーランパートの激闘ーーー

※この物語に登場する組織やルールは架空のものであり、実在する組織とは無関係のフィクション作品です。

※この物語の舞台は、実世界におけるITUやJTUが存在しない、完全にオリジナルな異世界です。ここではトライアスロンは独自の歴史と発展を遂げ、従来の枠にとらわれない革新的な競技となりました。その結果、最高権威を持つ組織して誕生したのが「インフィニティ・トライアスロン・フェデレーション(ITF)」です。ITFは、自由な装備選択や革新的なルールを推進することで、選手たちが個性と戦略を存分に発揮できる環境を提供し、この世界におけるトライアスロン競技の基盤となっています。

登場人物紹介

  • 近江 海(おうみ うみ)
    チーム「TRY REX」のリーダー。介護福祉士として働きながらトライアスロンに挑戦中。冷静だが情熱的な性格で、仲間と共に次回の出場を目指す。
  • 中野 直也(なかの なおや)
    元空手道全国大会優勝者。秒殺優勝の伝説を持つ。根性論者だが、最近は科学的指導にも耳を傾ける。応援に熱中し、来年の出場を熱望。豪快で少しお調子者な性格。
  • 糸川 陽子(いとかわ ようこ)
    会社事務員。地道な努力を積み重ね、“努力の天才”とも呼ばれる。スイムとランで成長著しい。来年の大会出場を目指す。ふんわりした雰囲気だが、芯が強い。
  • 速水 唯(はやみ ゆい)
    元学生水泳全国大会優勝者。伝説のスイマーで、現在はコーチ。チームの練習メニューを組み、科学的指導でサポート。生まれてから水泳で負けたことがない美人アスリート。
  • 植田 亮一(うえだ りょういち)
    スポーツメーカー「ファルコンスポーツ」の天才技術者。科学的な分析でチームを支える。堅苦しいが憎めない存在。
  • 岬 智子(みさき ともこ)
    チーム「鉄神51.5」のリーダー格。「島の国トライアスロン大会」常連優勝者で、他大会でも優勝歴が多い実力派。「島の国トライアスロン大会」は抜群のコース熟知力を発揮する。身体の熱を発散しやすいため、紫のハイレグカット型競泳用水着(トライスーツ)を使用している。
  • 八王子(はちおうじ)
    ロングディスタンス・トライアスロンで大活躍。ワイルドな性格&高いプライドを持つ。黒い袖付き足首まであるトライスーツ。“DHポジション”を多用し、強力なパワーでバイクを得意とする。
  • 嘉栗(かくり)
    “鉄の肺”を持つ男。潜水や心肺勝負で並外れた能力を発揮する変人。黒の袖付き・ハーフスパッツ一体型トライスーツ。行動は謎めいていて行動も意味不明である。今回のランパートでどんな戦術を見せるか、周囲から注目されている。
  • 藤原 涼子(ふじわら りょうこ)
    チーム鉄神51.5所属でスイムが得意。水の抵抗を経験するネイビーのハーフスパッツ型競泳水着(トライスーツ)を使っている。オープンウォータースイムでは岬と互角の実力だが今回は岬に先を越されてしまう。バイクは、ぬかるみ道や激坂にはやや苦手意識あり。
  • 清澄 快人(きよすみ かいと)
    謎の高身長アスリート(190cm)。2ピーストライウェアを使用している。バイクは平均的。全国高等学校陸上競技対校選手権大会(インターハイ)で10,000m。即ち10kmで日本一になった選手。自己ベストは29分45秒。強力なランニング能力を持つ。
  • 榊原 翼(さかきばら つばさ)
    チーム「鉄神51.5」のバイクスペシャリスト。バイクのスペシャリストなので青のハーフスパッツ型競泳用水着トライスーツを使っている。女性でバイクのスペシャリストであり愛車の調整を念入りにしている。
  • バイクが得意の選手。国内ロードレースで好成績を残し、プロ選手にも勝利した経験を持つ。
  • 高橋 結城(たかはし ゆうき)
    チーム「鉄神51.5」の理論派ランナー。理論派女性ランナー。ランを得意とする戦略家。ハイレグカット型競泳用水着(トライスーツ)を使っている。
  • 南城 颯太(なんじょう そうた)
    伝説のスイマー。トライアスロン初挑戦でスイムは圧倒的だが、バイクとランで苦戦中。Tシャツ型トップとボックス型ツーピースウェアを着用。
  • 蒼井 颯那(あおい そうな)
    オリンピック出場経験のあるプロトライアスリート。藍色のハイレグカット型競泳用水着(トライスーツ)を着ている。“氷の女王”とも呼ばれるほどクールな性格で、大人びた美貌と圧倒的実力を誇る。先ほどスイムで2位アップし、現在バイクパート1位を走行中。

     ーーーーーーーーーーー  本    編  ーーーーーーーーーーーーーーーー

午前11時15分

トライアスロンのレースは、なかなか現地では応援はできないので、ビーチに設置された観客席に座って大型モニターで応援をしていた僕たち「チームTRY REX」のメンバーは、焼け付くような日差しの中で息をのんで「第21回 島の国トライアスロン大会」の行方を見ていた・・・

気温は体温を軽く超える38℃。

湿度も高く、まとわりつく空気が暑さをさらに感じさせていた・・・。

スイム1.5km、バイク40kmを終えた選手たちは最後の、そして最も過酷な試練であるラン10kmへと突入していた。

この「島の国トライアスロン」のランコースは、海岸線沿いの砂浜を含む5kmを走り、折り返してアップダウンの激しい山道を抜け、再び会場へ戻る一方通行のレイアウトだ。

国内でも屈指のタフさで知られるコースは、まさに選手たちの体力と精神力を削り取り、限界に挑戦するにはちょうど良いコースだ。

トランジションエリアでの慌ただしい動きはすでに終わり、選手たちはバイクラックにバイクを立てかけ、ヘルメットを外し、ランニングシューズへと履き替えて次々とスタートラインを駆け出していく。

そのスピード、その表情には、ここまでの疲労と、そして最後のパートにかける気迫が入り混じっていた・・・

大型モニターには、各パートのコースを進む選手たちの姿が鮮明に映し出されている。

実況アナウンサーの興奮した声がスピーカーから響き渡る・・・

アナウンス(スピーカー)

「いよいよトップ選手のランパートがスタートしました! まずトランジッションを最速で駆け抜けたのは、バイクパートで驚異的な追い上げを見せた八王子選手です! 現在トップを快走しています! 続いて、地元の女王、岬智子選手が追いかけます! そして意外な展開・・スイムから常に上位をキープしているオリンピアン、蒼井颯那選手がランスタートをしました・・・」

モニターには、先頭を走る八王子の姿が映っていた。

黒い袖付き足首まであるトライスーツは、彼のとんでもない鍛え抜かれた肉体を覆って、どこか重厚感すら感じさせる。すごい存在感だ!

ロングディスタンス・トライアスロンで培われたであろう力強いストライドで、彼は序盤から後続を引き離そうとしているようだ。すごい・・

海「八王子さん、バイクでトップに立った勢いそのままに、ランでも飛ばしてるな。このペースを最後まで維持できるかな?」僕の隣に座る中野が、腕組みをしてモニターを見つめている。

中野「いや、どうだろうな・・・ランは岬さんや、特に蒼井さんの方が専門性が高いだろう。そろそろ追いつかれる展開じゃねーか? 八王子もスタミナはあるだろうけど、あのバイクの後でこのペースは・・・どうだろ〜なっ」

糸川さんが心配そうに眉をひそめていた・・・

糸川「でも、八王子さんもロングで鍛えてるから、スタミナはありそうですよね…粘るんじゃないかな…」

唯コーチが、いつもの柔らかな笑顔で応じる。

唯コーチ「そうですねぇ〜。ランは本当に持久力が試されるパートですから、まだまだレースの展開は全く分かりませんよ〜。特にこの暑さですから、ペース配分が重要になってきますね!」と笑顔で言う。

植田さんがタブレットを操作しながら口を挟む。

植田「私のバイタルモニタリング結果を見ると、八王子選手の現在の心拍数は約185 bpmです。これは一般的に彼の乳酸閾値であるLTを15%以上も、上回る領域です。さらに、私の皮膚温センサーが示す体表温は39.2 ℃です。汗発汗率も通常時の1.4倍です。これほどの熱ストレス下では、筋グリコーゲン消費が加速し、終盤で急激に走りが低下するリスクが極めて高いと予測できますです。ハイ!」

植田さんの長たらしい難しい分析に、僕たちは何となくなるほど、と頷く。中野が言い返すことができない事態だ・・・

しかし、彼のデータはいつも信頼できる。

そんな会話を続けていると、モニターに映るコースの様子が一変した・・・

選手たちは海岸沿いの砂浜エリアへと足を踏み入れたのだ・・

波打ち際から少し上がった、乾いた砂が足を取るセクションだ。

途端に、八王子のペースがわずかに落ちたように見えた。

重い砂の上では、力強いストライドが逆に体力を奪う。その隙を逃さず、後続の岬さんと蒼井がじわじわと差を詰め始めた・・

アナウンス(スピーカー)

「ここで岬選手と蒼井選手が、八王子選手に猛然と迫ってきました! ランコース最初の難所。砂浜の走りはテクニックが求められます! 足元の不安定な砂の上で、誰がスムーズに進むことができるか! 現在の順位とタイムは以下の通りです!」

スクリーンに映し出されたデータは、選手たちの厳しい戦いの現実を物語っていた。

●T1:第1トランジション(スイム→バイクへの乗り換え時間)

●T2:第2トランジション(バイク→ランへの乗り換え時間)

●最後は現在の総合タイム

1位:八王子

 スイム 15:12 + T1 1:00 + バイク 1:04:30 + T2 0:50 = 1:21:32

2位:岬智子

 スイム 15:10 + T1 1:00 + バイク 1:04:00 + T2 0:50 = 1:21:00

3位:蒼井颯那

 スイム 14:00 + T1 0:50 + バイク 1:03:45 + T2 0:45 = 1:19:20

4位:嘉栗

 スイム 15:15 + T1 1:05 + バイク 1:05:00 + T2 0:55 = 1:22:15

5位:藤原涼子

 スイム 15:20 + T1 1:10 + バイク 1:05:30 + T2 1:00 = 1:23:00

6位:清澄快人

 スイム 16:00 + T1 1:30 + バイク 1:10:00 + T2 1:30 = 1:29:00

7位:高橋結城

 スイム 16:30 + T1 1:00 + バイク 1:08:00 + T2 1:00 = 1:26:30

番外:南城颯太

スイム 13:15 + T1 0:45 + バイク 1:03:30 + T2 0:45 = 1:18:15

岬さんは地元選手であり、このコースを熟知している。

彼女は砂浜でも驚くほどスムーズに足を進めていた。

パープルのハイレグカット型競泳用水着のトライスーツは、この過酷な条件下で身体の動きを妨げないため、その動きはしなやかで力強いです。

専用のランニングシューズは砂地にも適用できるよう作られ、足裏全体で砂を捉えて巧みに蹴り出している。

いっぽうの蒼井は、藍色のハイレグカット型競泳用水着のトライスーツで無駄なく足の可動域を最大限に引き出しているようだった。砂地のコースを冷静沈着な表情で岬さんを追っている。

海「ハイカットのウェアって、こういう足元の悪い場所でも動きやすそうだね。脚の可動域が広くて、砂に足を取られてもリカバリーしやすいのかな・・」

唯コーチが僕の言葉に頷く。

唯コーチ「そうですね。ハイカットは、脚の付け根部分の布面積が少ない分、股関節周りの動きを全く妨げないのが大きな特徴ですね〜。特にランでは、蹴り出しや足の振り上げがスムーズに行えるので、パフォーマンス向上に繋がるんですよ。私も動きやすいですねぇ〜」と笑顔で言う。

植田さんがすかさず技術的な解説を加える。

植田「科学的に見ると、ハイレグカット型ウェアは股関節の屈曲・伸展角度を最大限に広げて、ストライドを長くすることができます。布面積が少ない分は、ウェア自体の空気抵抗係数が低くなるため、ランニング時の走行抵抗が減少するというデータもあります。はい!」

植田「さらに、超伸縮性の高い素材を用いることで、皮膚への張り付きや生地のたるみが抑えられ、動作に伴う生地抵抗を最小限に維持します。加えて、速乾性・蒸散性に優れた繊維構造が汗を素早く逃し、体表温度の上昇を抑制することで、持久力維持にもつながると考えられています。はい!」

植田さんの長たらしい難しい解説に、僕たちは何となくなるほど〜と頷く。中野が言い返すことができない事態だ・・・

しかし、彼の解説はいつも信頼できる・・

その時、モニターに新たな動きが映し出された。

4位を走っていた嘉栗選手が、驚異的なペースで前を追っているのだ!!

黒の袖付きハーフスパッツ型トライスーツを着た彼は、砂浜にも関わらず、まるで機械のように一定のリズムで、ほとんどブレることなく走り続ける・・・ロボットのようだ!これはやばそう・・・

その表情にはロボット的で感情が読み取れないが、その動きは紛れもないトップアスリートのものだ。

アナウンス(スピーカー)

「嘉栗選手、鉄の肺を持つ男が、ここランパートでその真価を発揮し始めました!すごい! バイクパートでもその並外れた心肺能力を見せましたが、ランでも動きに、このペース! 驚異的なスタミナで、トップグループに迫っています!」

海「嘉栗さん、バイクでもすごかったけど、ランでもこんなに速いのか・・・あの袖付きのウェアで、この暑さの中、よくペースを維持できるな・・まさに謎の男に相応しいな・・・」

唯コーチが感心したように言う。

唯コーチ「心肺能力が高いというのは、持久系の競技においては本当に大きなアドバンテージになりますからね〜。特にランは、心臓と肺が最後の最後まで負担が大きいパートですから・・・」

植田さんが再びタブレットに目を落とす。

植田「嘉栗選手の心拍数は、このランパート序盤にも関わらず、驚くほど安定しています。まるで機械のようです。体温上昇も他の選手に比べて緩やかです。この安定性が、彼のペースを支えている要因でしょう。はい」

その後ろでは、5位の藤原涼子選手が粘り強い走りを見せている。

藤原さんは、ネイビーのスパッツ型トライスーツで彼女のしなやかな走りをサポートしている。

スパッツ型はフィット感が高く、筋肉のブレを抑える効果があると言われている。スイムを得意とする彼女だが、ランでもその効果は発揮しているようようだ。藤原さんにとってベストなのは筋肉のブレを抑えるスパッツ型なのだろう。

そして、さらにその後ろには、大きく遅れてスタートした清澄快人選手が、怒涛の追い上げをしていた。バイクパートの疲れでランパートはあまりスピードが上がらなかったようだがエンジンがかかってきたらしい・・・

清澄快人は、丈の短いタンクトップとビキニ型競泳用水着のツーピースウェアが、彼の鍛え抜かれた長い脚と筋肉質な体を際立たせている。

清澄は、スーパーランナーだけあってその長い脚を活かして、まるで地面を滑るかのような大きなストライドで、彼は前の選手たちをごぼう抜きにしていく・・・これもすごい!!

そのスピードは、他の選手たちとは明らかに一線を画していた・・・これはやばい!

アナウンス(スピーカー)

「清澄快人選手、ランで驚異的な追い上げを見せています! インターハイ10,000m日本一に輝いた、まさにラン専門の強さがここで発揮されています! 素晴らしいスピードです!」

中野さんが興奮して立ち上がりそうになる。

中野「ほら見ろ! 言っただろ! ラン専門のやつが来たぞ! !あれが清澄か!!タンクトップ、 ビキニ型ウェアで風を切ってるぜ! はっは!こりゃ面白くなってきたなっ!」と興奮気味だ!

海「でも、まだトップとの差は大きい。スイムとバイクでの遅れを取り戻せるか・・清澄さんのランはすごいけど、あの差は簡単に縮まる距離じゃないな・・・」

その時、モニターに映ったのは、チーム鉄神51.5のもう一人の選手、榊原翼選手だった。

6位以下だが、榊原翼さんは青のハーフスパッツ型競泳用水着トライスーツを着た彼女は、本来バイクスペシャリストだがトライアスリートなのでランもそれなりに走ることができ、着実に順位を上げていた。

彼女もまた、長い脚を活かした、見た目にも美しいランニングフォームだ。

海「榊原さん、バイクだけじゃなくてランも、それなりに速いんだな。走りも軽快に見えるね」

唯コーチが目を細めて頷いた。

唯コーチ「そうですね〜。榊原さんはロードレースで培ったパワフルさと、ランナーとしての素質を併せ持っているんでしょうね〜」

コースは砂浜を抜け、今度は急な坂道へと入っていく。

選手たちは一気にペースを落とし、顔を歪め、呼吸を乱していった・・・

強力な太陽の光と急な坂道が、体力を限界まで追い詰める・・・

八王子が依然としてトップを維持しているが、その表情には苦悶の色が濃くなってきた感じがする。

岬さんと蒼井は、八王子との差をじわじわと詰める。嘉栗も相変わらず一定のペースで、そのすぐ後ろに虎視眈々とチャンスを伺っていた・・・。

アナウンス(スピーカー)

「坂道で八王子選手が苦戦しています! ペースが落ちました! ここで岬選手と蒼井選手が追い上げてきました! トップ争いは三つ巴の展開になるか! 現在の順位とタイムです!」

ここまでのランタイムが加算され、順位が再び変動する。

1位:八王子(1時間21分30秒+ラン約 5分=1時間26分30秒)

2位:岬智子(1時間22分00秒+ラン約 4分40秒=1時間26分40秒、10秒遅れ)

3位:蒼井颯那(1時間20分00秒+ラン約 6分50秒=1時間26分50秒、20秒遅れ)

4位:嘉栗(1時間23分00秒+ラン約 4分00秒=1時間27分00秒、30秒遅れ)

5位:藤原涼子(1時間24分00秒+ラン約 4分10秒=1時間28分10秒、1分40秒遅れ)

6位:清澄快人(1時間29分00秒+ラン約 3分00秒=1時間32分00秒、5分30秒遅れ)

7位:高橋結城(1時間26分00秒+ラン約 3分50秒=1時間29分50秒、3分20秒遅れ)

八王子の黒い袖付き足首まであるトライスーツは布面積が多い分、汗で肌に貼り付き、重そうに見えた。

腕の振りが小さくなり、脚の回転も鈍くなっている・・・一方、岬と蒼井は、ハイレグカットの軽快さを活かし、比較的スムーズに坂を駆け上がっている。

海「ウェアの面に関してはハイカットの方が、こういう坂道でも動きやすいのかな。生地の面積が少ない分、体への負担も少ないのかも。八王子さん、ちょっと不利に見えるな・・・」

中野が同意する。

中野「そうだな。嘉栗も袖付きだから、暑そうだな・・・同じように苦しんでるように見えるぜ。やっぱこういう過酷なコースでは、ウェアの選択も重要になるんだな」

その時、モニターに映ったのは、清澄快人の怒涛の追い上げだった。

坂道にもかかわらず、彼のペースはほとんど落ちない。

ビキニ型ウェアの軽さが、彼の長い脚の動きを全く妨げない。

鍛え上げられた筋肉が躍動し、風を切るように坂を駆け上がっている。すごい!!

アナウンス(スピーカー)

「清澄快人選手、驚異的なスピードで前の選手を抜いていきます! これはまさにラン専門の強さ! 坂道でも全くペースが落ちません!」

清澄はあっという間に藤原を抜き去り、嘉栗に迫る勢いだ。

その勢いからは、インターハイ日本一の実力がまざまざと感じられた。

中野「すげぇ〜!!」びっくりしている・・

海「清澄さん、すごい! まだまだいけるぞ! あのハイカットウェアの軽さが、こういう坂道でも有利に働いてるのかな?」

植田さんが解説する。

植田「説明します!そうですね。」

植田「ウェアの生地量が少ない分、重量も軽く、体にまとわりつく面積も少ないため、足への負担が軽減されます。また、空気抵抗が少ないだけでなく、特にこの高温多湿の環境下では、体温の上昇を抑制する効果も期待できます。体温調節がうまくいくことは、パフォーマンス維持において非常に重要です。はい!はい!」

植田さんの長たらしい難しい解説に、僕たちは何となくなるほど〜と頷く。中野が言い返すことができない事態だった・・・

しかし、彼の解説はいつも信頼できますです・・はい!

コースはさらに、ぬかるんだ泥道へと変化した。前日の雨の影響で、足元はドロドロになり、滑りやすく、非常に危険だ。

選手たちは慎重に、しかし必死に前に進もうとするが、バランスを崩し、転倒する選手が続出した。

アナウンス(スピーカー)

「泥道で多くの選手が苦戦しています! 足元が非常に滑りやすくなっています! ここで大きな差がつくかもしれません!」

そんな中、コース脇で一人の脇役選手がバランスを崩して転倒し、泥の中にうずくまって動けなくなってしまった。

観客席からも悲鳴が上がる。

しかし、その瞬間、上空からAI搭載の大型ドローンが「ビィィィィッ!」と高周波のサイレンを鳴らしながら急降下してきた。

ドローンは転倒した選手の真上にホバリングすると、機体下部からテント状の緊急救助器具を素早く展開し、選手を泥や日差しから保護した。同時に、医療スタッフへと正確な位置情報が送信されているのだろう。

その迅速かつ的確な対応に、会場からは安堵と感嘆の声が上がった。

海「すごい・・・ドローンがこんなに早く、しかもピンポイントで対応するなんて・・」

中野さんが目を見張る。

中野「さすが近未来のトライアスロンだな! 安全対策が半端ねぇ! あんなの目の前で見たら、俺も安心してレースに集中できる。まったく万博みたいなトライアスロンだぜ〜」

糸川さんも感動した様子だ。

糸川「本当に、選手の安全が第一に考えられているんですね。素晴らしい技術です。」

レースは容赦なく続く。

泥道を抜け、選手たちはランパートの折り返し地点に近づいていく。

先頭争いは依然として白熱していた。

八王子が僅かにトップを維持しているが、岬さんがそのすぐ後ろにぴったりとつけている。

清澄は驚異的なスピードで順位を猛烈に上げ続け、ついに藤原さんと嘉栗を抜いて4位に浮上した・・・驚異的だ・・・

嘉栗は苦しそうな表情で5位に後退した・・・

藤原さんは変わらずのペースで6位をキープ!



1位:八王子

2位:岬智子

3位:蒼井颯那

4位:清澄快人

5位:嘉栗

6位:藤原涼子

7位:高橋結城

アナウンス(スピーカー)

「岬選手がわずかにトップ八王子選手の後ろをキープしています。 そして、オリンピアンの蒼井選手がすぐ後ろに迫っています! 3者、その差はほとんどありません! しかし・・・清澄快人選手がその背後から猛追しています!かなり早いペースです! まさに壮絶なトップ争いになりそうです!」

岬さんが泥や汗にまみれながらも八王子の後ろにピッタリとつきながら力強く走っています。

岬さんはコースを熟知している有利さを最大限に活かしています。

一方の蒼井は、その後ろからプロならではの無駄のない効率的な走りを続けています。その表情はクールなままだが、瞳の奥には勝利への強い意志が宿っているのが見て取れます。さすがプロっていう貫禄があります。

清澄は、タンクトップとビキニ型ウェアの軽さで、陸上10kmトップクラスの爆発的なランニング能力を活かし、驚異的なスピードでトップ集団を追っています。彼のランニングフォームは、他の選手とはまた違います。

海「岬さん、がんばれ! 地元の意地を見せてくれ!」

僕が思わず声に出して応援する。

その時・・・・・・隣に座っていた唯コーチが、僕の顔を見てふっと笑顔を見せた。

唯コーチ「海さん、選手を応援してる時、すごくかっこいいですね〜。情熱が伝わってきますよ」

不意打ちの言葉に、僕は少し顔が熱くなるのを感じた・・・

海「えっ、そ、そんなことないよ・・・唯コーチこそ、いつも選手のことを真剣に考えてて、かっこいいよ・・」

しどろもどろになりながら答える僕に、唯コーチはふわりと笑っただけだった。

その笑顔に、僕は胸の奥が熱くなるのを感じた・・・

来年は、唯コーチに「かっこいい走りだったね」って言ってもらえるように、もっと練習しないと、と僕は思った・・・

選手たちがランパートの折り返し地点に近づいていく。

海岸線沿いの平坦5kmが終わり、ここからはいよいよ山の中へと入っていくことになる・・・

最もタフで、最もドラマチックな最終盤の始まりだ・・・

アナウンス(スピーカー)

「選手たちがランパートの折り返し地点に到着しました! ここからコースは様相を変え、アップダウンの厳しい山の中に入り、最終的にメイン会場へと戻ってきます! 残り5km! この山岳地帯で、一体誰が抜け出すのか〜!」

八王子がトップで折り返し、岬さん、蒼井、清澄、嘉栗、藤原・・・と続く。トップ3はほとんど差がない。

僕たちは唾を飲んでレースの行方を見守りつつ、同時に、この過酷なコースを来年自分たちが走るのだという現実を改めて噛み締めていた・・

ランパート前半5kmが終わり、選手たちは後半5km、最後の試練へと向かう。

僕たち「TRY REX」のメンバーも、来年のこの舞台で輝くことを考えながら、さらに熱いレースを見守っていた・・・・・

過酷な・・山岳地帯での戦いが、今、幕を開けようとしていた・・・

つづく…


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